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幅 : 7.6cm×7.0cm 高さ : 3.91cm
本作は、口縁がわずかに外反し、胴から高台へなだらかに絞り込む笠形(かさがた)を採用しています。手に取った際、口当たりがやわらかく唇に心地よいのが特徴です。小ぶりながらもしっかりとした高台が設けられ、卓上での安定感と指掛かりの良さを同時に実現しております。
胴全体を包むのは、しっとりとした半艶の鼠灰釉(ねずはいゆう)です。灰釉特有の落ち着いたグレートーンは、光の角度によってわずかに青みを帯び、冷酒を注いだ際に涼感を添えます。その上を走る白刷毛目は、半乾き状態の白泥を太刷毛で一気に引いたもの。ダイナミックな筆致が即興性を物語り、静かな灰釉と相まって躍動感あふれる景色を生み出しています。
高台周辺は釉を掛けずに焼締めとし、胎土本来の赤褐色を露わにしています。この無釉部分が鼠灰釉との明暗を際立たせ、器に適度な緊張感を与えると同時に、掌で触れたときに土味のぬくもりを伝えます。畳付けは滑らかに整えられ、和食卓の漆器や木盆を傷つけにくい配慮が感じられます。
まず轆轤で薄手に成形した後、素焼き前に白泥を刷毛で塗布し、乾燥後に透明感のある灰釉へ浸し掛けを行う二段構えの工程です。焼成時には刷毛目部分の釉厚が薄くなるため、白泥の凹凸がほんのりと浮き上がり、指先に心地よいテクスチャーを残します。釉下に沈む刷毛目と無釉の高台――対照的な二つの表情を、一盃の中で見事に調和させる高橋道八様の窯掌(ようしょう)技術が光ります。
刷毛目技法は、朝鮮・李朝末期の粉青沙器(ふんせいさき)に端を発し、日本では江戸中期以降、各地の民窯で日用食器として盛んに用いられました。その素朴な即興性は、柳宗悦らが提唱した民藝運動でも「用の美」として高く評価されました。京焼色絵の名門である高橋道八様が、本技法を現代のぐい呑に取り入れることで、土と釉薬が織りなす原初の美を再確認させてくれる逸品に仕上がっております。
高橋道八家は江戸後期以来、京焼色絵の名門として知られます。九代様は京都文教短期大学 服飾意匠学科デザイン専攻を経て、京都府立陶工高等技術専門校 成形科・研究科、さらに京都工業試験場本科で技術基盤を固められました。
平成8年(1996年) 八代道八様(父)に師事し、本格的に作陶を開始
平成24年(2012年) 九代 高橋道八を襲名
服飾デザインで培われた造形感覚と、京焼の伝統技法が交差する作風は、道八家に新たな風を吹き込み、現代茶席やギャラリー空間にも映える洗練を示しています。
鼠灰釉の静穏と白刷毛目の躍動が同居する本ぐい呑は、冷酒にも燗酒にも寄り添う包容力を備えています。口縁のやわらかな丸みと高台の焼締め素地が指先に心地よく、酒を含むたびに刷毛目の筆勢が盃内でゆらぎを映すさまは格別です。日々の晩酌はもちろん、酒席での語らいの中に“手仕事の息づかい”をそっと差し込んでくれることでしょう。どうぞ末永くご愛飲いただき、経年変化とともに深まる灰釉の景色と、高橋道八様の卓越した造形美をご堪能くださいませ。
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